雇用不安時代に高まる起業家志向の「理想と現実」

何が違う?「起業できる人・できない人」の深くて小さな差

「いつかは起業したい」。こんな夢を持っているビジネスパーソンはたくさん存在しますが、実際に行動に移す人は少ないもの。結果的には「起業の意思はあるものの、しない人」がほとんどを占めています。では、「早期に起業した人」と「なかなか起業しない人」とは何が違うのでしょうか?注目の若手起業家2人と、起業家を数多く取材する『アントレ』編集長への取材で調べてみました。

2012年8月29日

「失敗をシミュレーションしすぎる」人は起業できない

株式会社nanapi 古川健介さん

株式会社nanapi
代表取締役
古川健介さん

恋愛や生活ネタ、Webサービスの使い方まで、あらゆるハウツーを集めたサイト「nanapi」。古川健介さんがこの「nanapi」を立ち上げたのは、今から3年前。28歳の時だった。

■大学時代の起業で挫折。会社勤めで「稼ぐ力」を身につけてから再び起業

実は大学生時代に一度、起業したことがあるんです。19歳のときに学生掲示板の「ミルクカフェ」を立ち上げたら、大勢の人が使ってくれて。自分ひとりの力でこれだけのインパクトを与えられるならば、会社にすればもっとたくさんの人に来てもらえるんじゃないかと思っていたところ、「会社をやってみないか」と声を掛けてくださる人がいたのです。
でも、「会社経営に関する実力がないのに、社長になってしまった」ので、すぐに限界を感じました。いいサービスは追求できても、それを「お金を稼ぐ力」に結びつけられなかったんです。せっかくたくさん人は来てくれても、なかなか収益につなげられない。そのとき、「『たまたま起業できちゃった』からダメなんだ。今度はちゃんと準備して、実力をつけてから起業しよう」と決めました。
そこで、ビジネスパーソンとしてオカネを稼ぐ力をつけるために、ネットビジネスに注力していたリクルートに就職。もちろん長くいるつもりはなく、「3年働いて、力をつけたら独立しよう」と思っていました。

社会人になって、変わりましたね。それまでは、感覚的、場当たり的にビジネスを動かしていましたが、きちんとロジックを描いて、いろいろな人を巻き込んでビジネスを動かす経験ができました。これって、社会人として至極当たり前のことなんですけどね。こういう視点が全くなかったんです。
仕事のかたわら、専門書を読みながらプログラミングとWebデザインを勉強しました。「ミルクカフェ」はフリーのプログラムソフトで作ったもので、当時はITに関して最低限の知識しかありませんでした。このほか、経理やファイナンス、法律などの本も読みましたよ。月に10冊以上は、さまざまなジャンルのビジネス本を読んで知識を仕入れていました。でも、起業してわかりましたが、勉強で得た知識なんて、そんなに役に立たない。サービス面でも資金面でも、思いもよらないトラブルが毎日のように起こるんです。それに必死に対応し続けていたら、3年分の机上の知識量なんてあっという間に超えちゃいました。必要に迫られて、やったことのない営業もしたし、見積書や契約書も見よう見まねで作りましたが、何とかなりましたよ。

■失敗をシミュレーションし過ぎると動けない。やってしまえば何とかなるのに

周りの若手起業家を見ていると、本来の自分は会社員ではない、と思っていて、会社員でいることがどうにも居心地が悪くて、起業してしまう、という人が多いですね。「会社員として働いている自分のほうがしっくり来ている」ような人は起業できないと思うので、本当に起業したいなら、「起業している自分のほうが本当の自分だ」と思う必要がある。
あとは、「起業はタイミング」という声をよく聞きますが、起業家の皆さんは「タイミングを自ら呼び寄せ、それに乗れる」人だと思います。例えば僕の場合、そもそも「入社3年で辞め、起業したい」という目標はありましたが、その時期に誘った今の共同創業者である当社CTOも「会社を辞めてもいい」と思っていた時期で、タイミングがバッチリ合った。特にIT分野の場合は、いくらアイディアがあっても、優秀なプログラマーと組まないとビジネスは成功しません。逆も然りです。そのために、いろいろな人と合って人脈を広げることは大切だと思いますね。僕の場合は、意識して人脈を広げたというよりは、自分が作ったサービスに注力していたら、それに注目してくれた人からいろいろな縁がつながっていった感じなのですが。

「起業したいと言っているのに、できない人」は、いろいろな失敗パターンを事前にシミュレーションしすぎちゃっているんでしょうね。出そうと思えば、リスクはいくらだって出せるので、あまり意味がありません。それに今の時代、会社員をし続けるのだってリスクがあります。有名な企業に入っても安泰はないと思います。そういうところには超優秀な人がたくさんいて、その中で、圧倒的な成果を出し続けて出世するのは非常に難易度が高い。さらに「そこでしか通用しない力」しかない状態で会社を辞めることになったら、食べていけなくなる可能性もあります。そう考えると、起業して自分の力で食べていけるようにするほうがよほどリスクが低いって、僕なんかは思うんですけどね。

生涯をかけて取り組みたいと思えるテーマに出会えるか否か

ウォンテッド株式会社 仲 暁子さん

ウォンテッド株式会社
CEO
仲 暁子さん

Facebookのソーシャルグラフを利用して企業とビジネスパーソンのマッチングを行う、新しい採用サービス「Wantedly」。CEOの仲暁子さんは、2010年25歳のときに、現在の会社を立ち上げた。

■ソーシャルメディアと解決したいテーマ。2つがそろったから自然に起業できた

大学生の時に一度、「起業めいたこと」をしたことがあります。「1円起業」ができるようになり、学生起業がすごく流行っていたころで、かっこよさそう!と仲間4人とサイト制作の会社を作りました。でも、起業するのが目的だったから、すぐに頓挫。1人抜け、2人抜け…で空中分解しました。苦い経験です。

大学卒業後、就職したゴールドマン・サックス証券で担当したのは、日本株のセールス。徐々に仕事に慣れ、面白さを感じ始めたころ、リーマンショックが起こり、事業環境が急激に悪化。憧れていた先輩や仲間たちが会社を退職し、私も、入社1年半で後を追うように辞めました。
その後、縁あって立ち上げたばかりのFacebook日本法人で働くことになったのですが、そこでソーシャルメディアのすごさを目の当たりにしたんです。大企業が、何億円もかけて自社プロダクトをPRしている一方で、無名の会社なのに、ソーシャルのクチコミだけで大売れしているプロダクトがある。これはすごい時代が来たぞ!とワクワクすると同時に、ソーシャルを使って何かできないか?と思うようになったんです。

一方で、私の根本には、「好きなことを仕事にして、一生楽しく暮らせたらいいな」という想いがありました。両親とも大学の教員なのですが、毎日仕事に行くのがとても楽しそうで。その姿を見て育ってきたから、「仕事=楽しいもの」と刷り込まれていた。だから、「楽しくなくなった」と思ったときに、会社を辞めたんです。私の大学の同期も皆、会えば会社や仕事の愚痴のオンパレード。そんな世の中でいいのかな、せめて私の周りの人たちを笑顔にできる方法はないかと考えていたら、Wantedlyの原型が浮かんだんです。
「ソーシャルメディアが動き始めている」「解決したいテーマがある」。この2つが揃ったから、ごくごく自然に、起業という道を選んでいました。

■「儲かることを探す」のではなく「他でもない、自分がやるべきことを追求する」

周りを見ていると、私と同様、「やるべきこと」で起業している人が多いと感じますね。やるべきこと、というのは、「好き」と「得意」が掛け合わさって、かつそれを自分がやるべきだというストーリーが背景にある、という意味です。ほかの誰かがやってもいいことを、別に自分がやる必要はない。
例えば、花が大好きで、趣味でフラワーアレンジメントを作って周りにあげていたら、友人づてで「うちの店に置きたい」と発注が入るようになり、それがさらに口コミで広がっていった人とか。好きで、得意なことを追求していったら、結果が出て、自然に起業という選択に至ったというケースがほとんどです。
もちろん、ビジネスとして成立させるためには、最終的な市場のサイズなどビジネスのポテンシャルを計算することも必要ですが、それ以前に「本当にそれを自分がやるべきなのか」が必要だと思います。

一方で、起業できない人は、「儲かることは何か」を考えて、事前準備をしすぎている印象。どこにビジネスチャンスがあるのか?と考えすぎて結局何もできなかったり、ねじりハチマキで「起業するなら事業計画書を作って…初年度は売り上げ○円で…○年以内には黒字化させて…」なんて綿密に計画を立て、その通りに行くというメドが立つまで動かなかったり。でも、「計画通りにいく計画」なんて、まずありません。起業したら、予想もしないようなことが毎日のように起こるんですから(笑)。

結局、起業できる人とできない人の違いは、「儲かるテーマ」を見つけられたかではなく、「生涯をかけて取り組みたいと思えるテーマ」を見つけられたか、なんだと思います。そういう自分の代名詞となり得るものは、自分の中にきっとあるはず。それを磨く努力をし続けば、自然にネットワークができるし、起業もできるし、オカネだってついてくると思っています。
私自身、周りを笑顔にできる今の仕事が大好き。Wantedlyを通して、すべての人が「仕事が楽しい!」「月曜日が来るのが超嬉しい!」と思える世の中にしたいって、真剣に思っているんです。

起業できる人のキーワードは、「SAW」で表せる

『アントレ』編集長 藤井 薫氏

株式会社リクルート
『アントレ』編集長
藤井 薫氏


起業に必要不可欠なものは、「SAW」と言うキーワードで表せます。和訳すれば、格言・ことわざという意味ですが、4つの要素があります。

まず「S」はStrategy(戦略)。起業を志すにあたり、自己の強み・弱みにしっかり向き合って、どうしたら自分の能力を最大限に活かし切れるか?そうした自分戦略を突き詰めていない人が多いように感じます。何年経っても情熱が消えない、自分らしいテーマで起業することが、無理のない一番の戦略です。
「戦略」は、「戦いを略す(はぶく)」の意。強みを活かせる分野であったら、無駄な汗もかかずに済みます。

次に「A」はArt=芸術を指し、「同じものは作れない=かけがえのないもの(一回性)」という意味です。「いつかは起業」では、何もできません。もし本当に起業したいならば、人生において「時間は限りあるもの」であることを認識し、「いま・ここで一歩前に踏み出す」という日々の小さな行動の積み重ねが必要です。また、成功している起業家には、出逢い、仲間、顧客、命を大切にする人が多いのが特徴。一度限りの人生、一期一会の大切さを理解している人が、成功を引き寄せるのです。

三番目の「W」は。Will。「意志」という意味を持ちます。つまりは、ボランティアに通じる「無私」であり「利他」の意志のこと。成功する起業家は、他者の利を自己の利と重ねる特質があります。自分が儲かるものではなく、無我夢中になれるものなれるものは何かを考え、それをテーマに起業の道を選ぶこと。起業家自身が夢中になれるものこそ、周りを魅了するのです。

そして最後に「SAW」。ご存知seeの過去形です。ビジョンがなければ起業家でないと言われますが、実際、自分が実現したい世の中を、まるですでに「見た」(saw)ように話せる起業家がいます。彼らは10年後も同じリアリティーを追い続けられることでしょう。まだ語れないようであれば、見える場所まで一歩踏み出してみることです。

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伊藤理子
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設楽政浩

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