Androidの時代！業務系から制御系SEへの転身

「業務系と制御系を比べれば、前者はスマートフォンやソーシャルのアプリ開発など派手な印象があり、こちらを選ぶ学生や若い人が多いようです。そのため、最近では制御系エンジニアに『希少価値』も出始めています」

ただ、業務系から制御系への転職はかなり難しいのが実情だ。河辺真典氏はまずCPUの差を語る。家電などの制御に使われるCPUは機能が限定されたものなので、PCの高性能で汎用的なCPUは要らない。むしろ、最低限の特殊用途に特化した、安くて軽く、しかし処理のリアルタイム性を重視したものになる。だからOSにはRTOS（リアルタイムOS）が使われている。記述言語はCが主流だ。

 

「そのため、制御ソフト開発で求められるのはこのCPUの特性を理解すること、C言語が書けること、対象製品の知識があることなどです。一般的な業務系エンジニアはCは書けてもほかのことを知りません。ただし、変化が起こってきました。今後は業務系エンジニアにもチャンスは広がっていくと思います」

例えば、携帯電話の通信制御といったリアルタイム性に加えアプリケーションの高機能化から、「組込みLinux＋C/C++」での開発が増えており、最近では家電にも使われ始めてきた。また、Androidの急激な普及により、その下の組込みLinuxとともに、「組込みLinux＋Android」での開発が増え始めた。

 

Androidで制御されるスマートフォン開発では、組込みLinux＋Android上でJavaを使用している。そのため、業務系Webアプリケーションを開発している人で、Javaが書ける人には、転職可能性が高まって増えてきたという。また、「組込みLinux＋Android＋Java」は今はスマートフォンが中心だが、今後は家電やAV機器に使われる可能性もあるため、可能性はより広がりそうだ。

「ロボットや自動車の制御は無理でも、あくまでも私見ですが、将来的にEVなら可能性があるかもしれません。いずれにせよ『安価なCPU＋RTOS＋C』の時代からは動いています」 

「UIの経験から入る」という可能性もあるという。例えば、タッチパネルを表示させるのはWidowsやLinuxだし、ATMの表示にしてもUIが必要となる。こうしたUIの開発経験を活かした転職もあり得るだろうとのことだ。Androidの開発経験をアピールするにせよ、履歴書に「UIの経験あり」と書くことでよりチャンスが広がりそうだ。

 

自分のソフトで製品が思い通りに動く、綿密で精密なコントロールが可能となる。これは業務系エンジニアには味わえない喜びだ。震災の影響はあるものの、欧州や新興国向けにMFPやエアコンなどを投入する企業は多く、自動車メーカーや家電メーカーにも復活の予兆はある。制御系エンジニアのニーズは今後も増えそうだ。

「業務系から制御系より、制御系から業務系に行くほうが転職可能性は高くなると思いますが、私は制御系から業務系に行った人を見たことがありません。それほど醍醐味のある仕事だということです」

ここで3年ほど組込みソフト開発に携わった後、別の企業でグループウェアのアプリ開発などを3年ほど、さらに別の企業で同じソフトの導入や運用を2年ほど担当した。

「組込みの現場を離れて5年が経っていましたが、Androidなど新しい技術も出てきて、もう一度組込みに触りたい、スキルを磨きたいと思うようになりました。そこで転職活動を始めたのです」

組込みへの熱意が転職動機だったが、現状では技術の伸びしろが見込めないこと、より大きな会社で働きたい気持ちなども後押しした。ただ、当初から決めていたことが2つあった。ひとつは「最初で最後の転職」にすること。もうひとつは「組込み開発が絶対条件」。

 

組込みに関しては5年前の3年間の経験しかない。進化の激しい技術の現場で5年間のブランク、長いとはいえない3年の経験は、転職に有利には働かないだろう。しかし、「組込み厳守」でリクナビＮＥＸＴなど転職サイトにスカウト登録したところ、かなりの数のスカウトメールが来たという。

最終的に決めたのがトランコムISS。仕事が一段落する3月を退職予定に昨年から転職活動を続け、今年の4月1日に予定通り入社。この記事が出るころは開発現場で働いているはずだ。

「Androidスマートフォンの組込みソフト開発です。まずは機能の解析をメインに、C++とJavaを使うようです。実はこの2つの言語はあまり知らないんですが（笑）、Cはわかるので差分を取りながら勉強すれば覚えられると思います。今はその下準備の最中です」