模倣品対策、海外特許、海外企業M&A…

世界を相手に戦う、グローバル知財・財務の「リアル」

アジアを始めとする海外での事業展開を積極化する企業が増えている。それに伴い、経理や法務、知財、人事などの事務系スペシャリストの仕事も、ワールドワイドになっている。そこで今回は、グローバル展開を積極化している企業で、世界を相手に活躍している知財、財務の2人にインタビュー。今の仕事内容と、世界で活躍するために必要なスキルを聞いた。

2011年1月12日

【知財】中国をはじめ、海外での模倣品の数が急増中。開発担当者の
思いを尊重しつつ会社の権利、財産を守ることが、われわれの役目です

(株)タカラトミー 新藤 剛さん

株式会社タカラトミー
管理本部 法務部 知的財産課 課長
新藤 剛さん(33歳)

Profile 大学法学部卒業後、2000年4月に新卒でタカラ(現タカラトミー)に入社し、すぐに法務部門に配属。当時は専任担当者がほとんどおらず、入社半年後には知的財産関連業務を一人で任されるように。06年3月にいったん退社し、大手小売りチェーンなど2社を経験するも、07年7月、現在の職場に戻る。現在は課全体の管理とともに、海外での模倣品対策と海外出願戦略を担っている。

業務における海外案件比率は約7割。中国での模倣品対策に追われる日々

海外での模倣品の数は、ここ数年で急増していますね。例えば中国では、当社の人気商品である現代版ベーゴマ「ベイブレード」、首をゆったり振る癒し系キャラクター「のほほん族」の模倣品が氾濫している状況です。
模倣品を見つけたら、現地の調査会社に要請し、問屋、製造工場…とさかのぼって追跡調査をします。そして製造工場を見つけたら、現地の取締当局に要請し、模倣品を差し押さえてもらう。こういう手順を取ります。
しかし、昨年1年間のベイブレードの取締まり件数はわずか5件、実際に押収した数量は5万個程度。実際はこの何倍もの模倣品が作られているはずなのですが、模倣品製造者も頭を使い、受注生産に切り替えて在庫を持たないようにしている。取り締まりが入っても、「在庫がないからやっていない」で言い逃れるのです。
当社の開発担当者は、長い時間をかけ、苦労を重ねて、想いを込めて商品を開発しています。その労力や想いを一切無視して、現物から金型を取り、同じ商品を簡単に作って売るわけです。非常に悔しいし、許せない。だから、模倣品製造がいくらアンダーグラウンド化しても、われわれは絶対に追い続けなければならない。中国の調査会社や、現地当局とは頻繁に情報交換をして、年に2〜3回は現地にも出向くようにしています。会社の権利と開発者の想いを守るのは、われわれしかいないんだという使命感を持って、日々動いています。

海外での特許も、会社のグローバル戦略を大きく左右する重要な業務

グローバル展開を積極化している当社では、2013年3月期に海外売上高比率を25%に引き上げる計画。そのため、海外での特許出願戦略も、知財の重要な役割です。
従来は、日本国内で販売し、日本で特許等も取った商品を海外で売るという、日本を起点にした商品展開をしていましたが、今後は日本以外の国で出願・販売し、そこを起点にグローバルな展開を考えるという商品も出てくるはずです。出願の方法や期間は国によって異なるし、費用も全然違います。例えば欧米では、弁護士・弁理士の報酬が高く、日本の2倍、3倍の出願費用がかかるケースがほとんど。今後さらに海外出願の数を増加させるには、どうしても早期に権利を押さえたいという商品以外は、少しでも安く出願手続きをしてくれる事務所を探すとか、どの国を起点に出願すれば効率的かなどの戦略を考えることが必要。そのために、各国の法制度や費用などを片っ端から頭に入れているところです。

外国語スキルよりも「お国柄」を理解しコミュニケーションを取ることが重要

仕事を進めるうえで、外国語スキルは必要だとは感じます。現地当局や、特許・法律事務所、調査会社などとは英語でのやりとりがほとんど。現地の言葉を読み解かねばならない場面もあります。でも、正直言ってマストではない。それよりも大事なのは、現地の「お国柄」を理解したうえで行動すること。
例えば、中国の役所に「あそこで模倣品を作っているから取り締まってくれ」と声高に訴えるだけでは動いてはくれません。中国は「大義名分」や「名誉」を重んじる国。「現状のままではお互いのためにならない。互いの国の経済発展のためにぜひ協力し合いたい」という方向から話を持っていくと、すんなり話が通ったりします。私も始めは「早く何とかしてくれ!」と訴えるばかりでしたが、数を重ねるごとに傾向をつかめるようになりました。中国以外の国でもこれは同じ。相手を理解する努力、納得を得られるよう上手にコミュニケーションを取る努力が、何より重要だと感じています。
海外案件の業務比率がどんどん増えていますが、「グローバル知財」としての態勢固めはまだまだこれから。まずは、エリア担当者を決め、法制度、文化の違いを理解したうえで深く切り込んでいける「エリアごとの専門家」を育てていきたい。知財の体制強化が、会社全体のグローバル展開を支えると自負していますし、今はいたちごっこの模倣品に関しても解決の糸口が見つけられると確信しています。

【財務】グローバル展開の加速に合わせ、財務に求められる役割も拡大。
新しい知識の習得に日々努めています

キリングループオフィス(株) 小沢一志さん

キリングループオフィス株式会社
経理部 財務担当 主査
小沢一志さん(43歳)

Profile 1990年、銀行に入行し、法人営業に携わる。97年の経営破たんを機に、キリンビールに転職。財務担当として資金運用、企業年金の運用などを担当する。2005年10月、豪州子会社のライオンネイサン社に出向し、2年半為替のディーリングなどを担当。08年3月に帰国し、キリングループの間接業務機能を担うキリンビジネスエキスパート(現キリングループオフィス)に所属。グループ全体のファイナンス業務を担う。

海外子会社を含めたグループ全体の財務を担当。M&A案件のコンサルテーションにも関わる

現在の業務は、キリングループ全体の財務の取りまとめ。海外子会社の事業展開や設備投資に関するファイナンスにも関わります。現地の税制などを考慮しながら資金の効率的な提供方法や回収方法を検討し、キャピタルマネジメントを行っています。
国内市場の成熟化が進む中で、成長市場であるアジア・オセアニア地区を中心に海外事業展開を積極化している当社。海外の酒類・飲料会社へのM&Aの検討件数も増えています。実際に買収案件を探し、交渉するのは戦略企画部という別部署の仕事ですが、買収企業の財務状況を精査し、国ごとの事業環境や会計基準に照らし合わせながら買収に伴うリスクを取りまとめて経営陣に発信し、買収対象としての価値が適正かどうかをコンサルテーションするのはわれわれ財務の仕事です。
また、買収後のPMI(より高いシナジーを得るための統合プロセス・マネジメント)も財務の立場からサポートします。
買収企業の財務戦略の立案など、ヒト・モノ・カネの中でも主にカネに関するPMIについて、グループの一員としての「企業の適正な形」を考えます。ただ、ここ数年の間に多くの海外M&Aを仕掛けたため、社内にPMIの事例が十分蓄積できていないのが現状。足元でもどんどん案件が増える中、手探りながら走りつつ知見を溜めています。

豪州中核子会社に財務担当として出向。仕事のプロセスの違いを実感

財務担当者として大きな転機になったのは、豪州子会社への出向。1998年に資本参加した、豪州ビール大手のライオンネイサン社に、2005年から2年半、出向しました。ライオンネイサン社はキリンとして初の海外大型出資となった案件。いわば、グローバル展開の先陣ともいえる企業で、為替のディーリングなど主に外貨の運用業務を経験できました。
ライオンネイサン社は、従業員一人ひとりに与えられる権限が広く、自分の判断でディールの約定まで任されます。仕事のプロセスが、日本のそれとは全く違い、実に自由でした。
赴任当初は特に英語に自信がなく、約定のたびに緊張しましたね。電話で取引を行うのですが、通貨は何か、買いなのか売りなのか、金額はいくらか…をゆっくり話し、確認に確認を重ねて注文しました。少しのミスが大きな損につながるので、責任は重いのですが、その分図太くなり、それが少し自信につながったかもしれません。

グローバル展開する企業の財務担当者は、国際税務の知識が不可欠だと実感

グローバル展開を一段と推し進める中で、財務の知識だけではなく、法務や税務の知識が重要であると感じるようになりました。特に海外企業のM&Aにおいては、国際的なタックス・プランニングが必要不可欠。税務戦略の組み立て方ひとつで、セーブできる税務コストが大きく変わってくるのです。
以前、ある海外企業を買収する際に、税務コストをセーブする新しいファイナンススキームについて財務も検討チームの一員として加わり、最終的に導入にこぎつけました。当社としては初の試みであったため、新しいスキームの検討段階にはじっくり時間をかけました。社内の法務部門、税務部門と協働し、日本と現地で弁護士、税務のアドバイザーを立てて情報交換を行い、両国の会社法と税法の不安要素を一つずつ潰していきました。準備には半年以上を要しましたが、結果として、従来の方法よりも相当の税務コストを抑えることができました。長い道のりでしたが達成感がありましたし、税務コストに関する意識がガラリと変わった、大きなターニングポイントになりました。
今後、海外進出がさらに加速すれば、より精度の高い税務戦略の構築が必要になります。単に財務としての知識と経験を増やしていくだけではなく、国際的な税務知識を少しでも身につけることで、財務担当者としてさらに貢献していきたいと思っています。

あなたの経験を評価したグローバル企業から声がかかるかも!?
リクナビNEXTスカウト活用のススメ

グローバル展開を積極化している企業で、事務系スペシャリストとして新たなスキルを身につけ、ステップアップしたい…そう思ったら、リクナビNEXTに登録を。自身のスキルとキャリアプランを盛り込んだ匿名レジュメを登録すれば、その内容を評価した企業からオファーが届きます。今まで積んできた経験、スキルは職務経歴欄で具体的にアピールし、英語など語学スキルがある人は、語学レベルを忘れず記入しておきましょう。
専門性の高い経理・財務や法務・知財、人事やマーケティング職などの採用の際、「欲しいスキルを持った人にピンポイントで声をかけたい」とスカウトを活用する企業は多く、思わぬ企業から声がかかる可能性も。チャンスを逃さないためにも、すぐに登録しましょう!

スカウトに登録する

EDIT&WRITING
伊藤理子
PHOTO
設楽政浩

会員登録がまだの方

会員登録(無料)

会員登録がお済みの方

「今すぐ転職」にも「いつかは転職」にも即・お役立ち!リクナビNEXTの会員限定サービスに今すぐ登録しておこう!

1転職に役立つノウハウ、年収・給与相場、有望業界などの市場動向レポートがメールで届きます

2転職活動をスムーズにする会員限定の便利な機能

・新着求人をメールでお届け

・希望の検索条件を保存

・企業とのやりとりを一元管理など

3匿名レジュメを登録しておくとあなたのスキル・経験を評価した企業からスカウトオファーが届きます

会員登録し、限定サービスを利用する

※このページへのリンクは、原則として自由です。(営利・勧誘目的やフレームつきなどの場合はリンクをお断りすることがあります)