進む高齢化、医療費高騰、地域医療危機…

医療介護分野で加速するITエンジニアの活躍フィールド

日本は今、かつてない勢いで少子高齢化が進み、その中で医療費高騰や医師不足、地域医療の崩壊などさまざまな難題を抱えている。そうした難題解決のため、医療業界では電子カルテや地域医療情報システムなどのIT化によって、医療の再生を積極的に推進しようとしている。そこで今回、具体的なIT導入内容やそれによって必要とされるITエンジニアについて、専門家に詳しく聞いた。

2010年08月25日

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東京医科歯科大学 教授 医療IT推進協議会 会長 田中 博氏

東京医科歯科大学 教授
医療IT推進協議会 会長
田中 博氏

東京大学工学部卒業後、東京大学医学部講師や浜松医科大学医学部付属病院医療情報部助教授、米国マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て1991年から東京医科歯科大学に。
2003〜2007年日本医療情報学会理事長兼会長、2006年から医療IT推進協議会会長

医師不足、地域医療の崩壊、医療費増大etc. 日本医療・介護の抱える問題

IT化の背景にある、日本医療・介護が抱えるさまざまな問題

産婦人科・小児科における、激務や医療訴訟リスク等による医師不足、それによって引き起こされる救急患者のたらい回しによる死亡事件といった医療問題。また介護分野においても介護負担の重さに耐えられず、介護者が自殺してしまうなど、医療・介護が抱えるさまざまな社会問題をニュースで目にする機会が増えています。皆さんの中にも身近な問題としてとらえている方も少なくないはずです。

日本では1960年代に制定された日本皆保険制度によって、何か病気を患えば気軽に通院する人が激増した結果、日本の病院数は約8000と、ほかの国に比べて人口一人当たりの病院数がけた違いに多くなりました。一方、2004年から研修医が研修先を自由に選べるようになった結果、充実した設備を持つ都市部の大学病院等に研修医が集中。そのため地方では医者が不足する事態になり、中には病院が閉鎖されしまうケースも見受けられるようになってきました。特に地方にある中小病院の多くは赤字経営で苦しい中、このまま手をこまねいていれば都市部との医療格差はますます拡大し、地域医療そのものが崩壊してしまう危険さえあるのです。

また日本では急速な少子高齢化が進み、2025年には4人に一人が65歳以上という超高齢化社会を迎えます。基本的に65歳を過ぎると治療のための通院回数がぐっと上がるといわれている上、さらに高齢化によって拍車をかけることになります。すなわち、現在年間32兆円の国民医療費が大幅に増大することを意味し、国の存続を揺るがすほどの重大な社会問題となる可能性が大きいのです。

そこで医療のIT化を推進していくことによって以下の3つの目的を達成し、コスト削減による医療費の抑制、また地域医療の再生を目指している状況です。
1 医療の標準化…地域医療の格差の是正
2 個の医療を進化…医療サービスの質を高める
3 医療の偏在化…どこでも広く医療を受けられる

部門システム→オーダエントリシステム→電子カルテの流れ

日本医療のIT化は現在、第3世代にあります。
第1世代の「部門システム」では病院での医事会計において、保険診療の点数集計や3割負担などの会計手続きを自動的に計算できるシステムの開発を1960年代後半にスタートさせたのが始まり。ほかにも検査結果の情報を患者単位で集計するシステムなどもこの世代に当たります。
第2世代の「オーダエントリシステム」では、病院業務の電算化がさらに進みました。病院内にLAN回線を張り巡らせ、サーバやホストコンピュータを設置。医師から検査部や放射線部など中央診療各施設への検査依頼や結果のフィードバックなど病院内での業務伝達手段がIT化され、効率化が80年〜90年代にかけて大病院を中心に広がったのです。現在、600床以上の大病院の8割以上がすでに導入済みといわれています。

そして現在、積極的に導入が進められているのが「患者のカルテの電子化」。日本では1995年に初めて電子カルテが導入されて以来、現在では大病院の約4割が導入済みです。皆さんも医者の診察を受けるとき、PCモニタ画面に映し出されたカルテに医者が情報を入力したり、CTなどの検査画像を開きながら説明を受けた経験があるかと思います。また最近の若い医者は、カルテといえば紙ではなく電子化されたものというのが常識化しているので、ここ数年新たに開業した診療所においても電子カルテが多く導入されています。

電子カルテ画面例

医療・介護業界でITエンジニアが活躍するための条件

今後の医療IT化のカギを握るのは「地域医療情報システム構築」&「生涯カルテ」

現在、第3世代の電子カルテ化が進んでいるわけですが、今後のIT化の大きなカギを握るのが、第4世代となる「地域医療情報システムの構築」と、さらにその先にある第5世代「生涯カルテの作成」、この2つの動きになります。
まず地域医療に関しては、これまでの個別の病院内でのシステム化をさらに拡大させ、地域単位(国では今後5年かけて、全国94の地域に地域医療再生資金の予算措置を執行)でシステム化していきます。具体的には地域の中核病院にサーバを設置し、地域内の患者に関する医療情報データを蓄積します。一方、そのほかの地域内のある専門病院や診療所とは回線によってつなげることで、データを共有できるようにするわけです。
このようなインフラを構築することで、例えばある患者が急性疾患にかかって地域内にある救急病院で治療→リハビリ治療のための専門病院に入院→かかりつけの診療所に通院といった流れで進む場合、わざわざ各病院から情報を聞き出さなくても、共有データから迅速に患者の情報を引き出したり、また現在の治療状況を各病院で随時入力することで、ほかの病院に通院する時もスムーズに患者の受け渡しができます。
これによってコストや医師の負担を減らしつつ、地域全体で患者をサポートしていく体制を築けるわけです。

また「生涯カルテ」に関してはその名の通り、患者のこれまでの病歴や投薬歴などの医療情報を一元的に管理することで、質の高い医療提供が可能になるばかりでなく、糖尿病など慢性疾患の予防や悪化を防ぐ生涯の医療ケアが可能になります。寝たきりを防ぎ、健康寿命を延ばした結果、医療費の削減につながるわけです。
ある試算によれば一人の生涯カルテを作成するには3万円、国民全体で3兆円のコストがかかりますが、それにより5兆円もの医療費削減効果が見込まれています。

そのほか離島や医療過疎地域の患者と、都市部にある医療施設がネットを介してつなぐことで、TV電話等の画像機器と組み合わせた医療を行う「遠隔医療」や、最先端ゲノム医療におけるシステム処理化などがあります。
また介護分野では、ケアマネージャーと各サービス提供事業者がネットを利用してデータベースを共有し連携することで介護業務をサポートする「ASP介護ソフト」。「在宅健康管理システム」は血圧や心電図等の生体情報や双方向の映像、音声情報のデータを送信する通信機器を家庭に置き、この機器と自治体の健康管理センター等を通信回線で結ぶことで、医師が映像や音声で利用者の様子を確認しながら適切な介護・健康指導が可能になります。
このように医療・介護におけるさまざまなIT化によって、山積する問題をクリアしていくことができるのです。

医療の世界でITエンジニアが切望されている。活躍の条件は?

広域医療情報システムの整備や生涯カルテの導入スケジュールに関して、今年度から2013年度までに準備を進め、2014年以降全国的に普及させていく予定です。国としても医療分野におけるIT化は有望な成長分野であると位置づけ、ある一定の予算をつけて取り組んでいくことになっています。

また大手ITベンダーが中心になって現在、導入が遅れている中小病院を対象に電子カルテ化事業に取り組んでいますし、今後は医療情報システム構築のために、クラウドやASPに精通したIT技術者の力が必要になります。
さらに一般的な基礎IT技術がある場合、医療IT技術者に求められるのは基礎的な医学・医療の知識、および医療情報システムについての全般的な知識です。そうした知識を効率的に習得するためには、日本医療情報学会が実施している講習会や教科書を学習して、医療情報技師の基礎知識検定試験や医療情報技師能力検定試験を受験するのも有効です。現在、医療分野のIT化を担うエンジニアに対して認定されるこの「医療情報技師」の有資格者は8000人以上にもおよび、医療ITメーカーにもこの資格をもった技師が多くいます。今後、この方たちの存在もますます重要になってくるはずです。

まさにこれから医療・介護分野におけるIT化が本格化していく中で、ITエンジニアの活躍に期待が高まりつつあります。少子高齢社会の中で今後も高齢者が健康を維持し、安心して暮らせる社会基盤づくりの主役を担えるのは、この業界に身を置くITエンジニアならではのやりがいとなるはず。今後のキャリアパスの有力な選択肢として、今から視野に入れてみてはいかがでしょうか。

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山田モーキン

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